『未明の空、古い唄を口ずさむ』~本編前半 |
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| 本編 『脱出_Tears_』
空を見上げる。あるのはただ、真っ白な天井。 僕たち『人形』は世界をあまりにもしらなかった。 だから、口伝えで聞いたことがあるだけの『空』と言うものに憧憬の念を抱く。
『未来』それが仲間の中での、僕の呼び名だ。 閉ざされた世界の中で、最初に世界の事を言い出したから。 『希望』の意味を込めてつけられた。 なんで、未来が希望なのかは知らない。古い伝承だか、伝説だかによるらしい。 でも、そんなことは重要ではない。 今、『僕たち』に重要なのはこの世界から抜け出すこと。 僕は知ってしまったからだ。世界は僕たちにとって『牙むく者』であることを。
___脱出。それが僕たちに遺された手段だった。
ドォォォォ とにかくすさまじく大きな、爆発音。 即座にハツカネズミたちは走り出す。 「急いで、時間はないよ。」 頭痛を誘うような、警報ブザー。 遠く、スプリンクラーの作動音。 そして僕たちを襲う『兵隊』の行進。
めまぐるしく視界が動く、開ける、暗闇へと暗転。 走り続けている中、先頭にいた誰かが空を見つけた。 「空だ!」 歓声が響く。僕たちはついに、『外』への夢を果たした!
ドキュ 今まで聞いたことがあっただろうか、奇妙な音。 反響(こだま)する、低い音。___銃声
さっき叫んでいた先頭の男が倒れた。 赤い色___血___が広がる。 誰もがしんとなる。 心を無くした『人形』の姿に
閑まった世界で、いち早く動き出したのは僕だった。 「ちょっと、大丈夫!?」 彼にかけよる。 麻の服に広がった血を見て、僕は背筋に鈍い物が響いた。
目から、熱い熱いしずくが流れ出た。 「ぇっくえっく」と嗚咽が出る。 自らが犯した事に罪悪感を覚えながら、純粋な人形である、名前も知らない彼を抱く。 「あったかい、あったかいよ。きみのぬくもりが伝わってくる。」 荒い息をしながら、痛みに顔を歪ませながら、問いかける。 「ねぇ、どうして僕らは生まれたんだろうね、生まれなければならなかったんだろうね。 どうして生きることを望むのはいけないんだろうね?」 冷たい、冷たい。。。急速に躰が冷えていく。 嗚咽が止まらない僕に、人形である彼は慰めるかのように、自重するかのように 「ああ、もう僕はだめなんだろうね。」
そういって彼は、ほほえんだ。綺麗な微笑み。 感情無き人形ゆえの、アルカイックスマイル。
青白い顔の紫に変色していく唇が動き、、 歌うように口ずさみだす。 ~きっと、ぼくたちは木曜日に生まれたんだ。だから僕らはいつまでも不幸な人形でいなければならなくて そんな世界に嫌気がさせば 僕らの一人が立ち上がり それから僕らはいつまでも 世界を旅して回りつづける~ 自らに捧げるレクイエムのように、仲間たちの間で作られた歌を歌う。 初めて見るだろう『空』を見上げて吐息と共に小さく呟く 「木曜日に生まれた子どもたちは、やっぱりいつまでも旅を続けるのかなぁ いつまでも居場所を探し続けないといけないのかなぁ」 そんなこと、、、ない。絶対、、、ない! 「いけない!未来、後ろを見るんだ!」
その言葉に振り向く! 後ろからの狙撃。いつのまにか狙撃兵たちが次の充填を終えたのだろう。 とっさにバックステップをして、銃弾をかわす。 続く銃撃、しかし前の銃撃に体勢を崩した僕は、 _____よけきれない!?
瞬間、前に、壁ができた。 肉の壁だ。驚くほど真っ赤な血が、驚くほどたくさん吹き出てくる。 あとからあとから吹き出す血が、僕の顔を同じ色に染めていく。 「ぃ・・・ぃゃ・・・ぃゃだ」信じられないといった表情からさらに顔を崩して、絶叫。 「ぃゃだ!!」 爆音、というのだろうか。 常人を遥かに超えたヴォイスが周囲の空間を震動させる。
その声に、私たちの仲間たちも我を取り戻す。 暗示がとけたかのように、もういちど一斉に駆け出した。
血と涙が混じり合う中。私は自分の心に冷酷な判断をさせて、仲間と共に走り出した。
虚ろな瞳の彼は、誰とも無く呟き続けていた。 「そうだね。わかってる。そんなことあっちゃいけないよね。だからおねがいだ、たのむよ。 未来、きみはぼくたちの....」 「それにしても、あはは。おもったよりも『空』って、たいしたことないんだな、感動も何もないや」 私には、そんなふうに聞こえた気がした。
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6月17日(土)12:43 | トラックバック(0) | コメント(0) | Novel | 管理
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